Kiss me baby,Wake me up!

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乳白色の、暖かい世界にふわふわと漂う。
人肌よりも、少し暖かい。
あまりの心地よさに、ほうと息をつく。
誰もいない、自分のためだけの世界だという事が分かる。
守られている。
誰も自分を傷つけようとしたり、痛みを与えようとしたりしない。安心して、体中の力を抜き、全てを預けきる。
長い間探しつづけて、やっとみつけた場所だった。
何かが首筋に触れる。
安心しきっていた体はそれを受け止める。
ふと、首筋を見ると、そこにはエステで使う、美容吸引機ではないか。
驚く側から、次々と吸引機が体に吸いついてくる!
驚いて取り除こうとするのだが、強く吸いついていて、外せない。
「っっ!!」
剣心は、悲鳴と共に目を覚ました。
「はあー・・。夢か・・。」
剣心は安堵の息をついた。しかし!
夢ではなかったのである。
剣心の首筋には、寝ぼけた左之助がちゅうちゅうと吸いついていたのだ。

「ごめん、剣心・・」
朝食の準備をする剣心に、しょんぼりとした左之助がついて回る。しかし剣心は返事もしない。
いつも左之助には、首や腕など、肌を露出するところにキスマークをつけないようにと言い聞かせていた。少し不満そうだった左之助も、言い付けを守らないとエッチはさせない、という剣心の強硬な態度に負け、きちんと守ってきたのである。
今朝までは。
昨日、左之助は非常に幸せな気持ちだった。一週間ぶりにOKしてくれて、その上、昨日の剣心はとってもとってもかわいかったのだ。頬をぽっとぴんく色に染めて、涙を浮かべながらいやいやをした時の顔といったら、思い出しただけでももう、という感じなのである。そのせいでつい、言い付けを忘れてしまった。それもわざとではない。寝ぼけてしたことなのだ。
しかしいくらいいわけをしても、剣心の首筋から胸、二の腕にかけて真っ赤な鬱血の痕が散ってしまっている。それを見て、また剣心を押し倒したくなってしまった左之助だが、そんな事をしたらきっと一週間どころか、一ヶ月のおあずけは覚悟しなければならない。
左之助はぐっと我慢した。
しかし蜜蝋のように白く、なめらかな肌に浮かぶ鬱血は、まるで薔薇の花びらを張り付けたようでとても綺麗だ。綺麗なのだからいいではないかと左之助は思うのだが、剣心は大不満らしい。ぷりぷりと怒って、口もきいてくれないのだ。
左之助はおろおろと裸のままで剣心の後をついて回り、何とか機嫌を直そうと画策する。
しかし剣心はぷうと頬を膨らませ、まとわりついてくる左之助を邪険に押しのけながら手早く朝食の支度をし、コーンスープの缶を開け電気で温めた。
その間にシャワーを浴びようと、バスルームに向かう。中までついて来た左之助をぐいぐいと押し出し、服を脱ぐ。
ふう、と溜息をついてシャワーを浴びる。熱い飛沫の中で、赤い花びらにそっと触れてみた。痛みも何もないのだが、じんと熱を発するようだ。少し頬を赤らめながら剣心は唇を尖らせた。今日は、タートルネックの服を着なければなるまい。
ふと、バスルームのドアを見ると、誰かが立っている。
「けんしーん・・・」
「左之?」
「俺も風呂、入っていいか?」
「だっ、ダメでござるッ!」
「いいじゃねえか、」
「ダメーー!!拙者はもう出るから、タオル取って!」
「俺も風呂入りてえよー。な、入れてくれって」
といいながら、左之助は強引にバスルームに入ってきた。
剣心は慌てて体を手で隠しながら出ようとする。しかし左之助の長い腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられてしまう。
「さのお・・」
剣心はなおも暴れようとしたが、左之助の腕に包まれてしまっては、抵抗することなど出来はしないのだ。
熱い飛沫が舞い、湯気で真っ白の中、左之助に抱きしめられている。
「ごめんな、剣心。もうしねえから。ごめん。」
言い訳は一切しないで、素直に謝る左之助に剣心はつい笑みを零してしまう。
左之助はすっかり元気を無くして、心から反省しているようだった。きっと今犬の姿になれば、しっぽがだらんと垂れていることだろう。
いつもと違い、わるさをしようともしないで剣心の耳を洗ってやったり額に口付けたりしている。剣心も視界が湯気で曇っているせいで羞恥心も薄れ、左之助の顔や耳の中を掃除してやった。
「ほんとに、もうしちゃダメでござるよ?」
「うん。もうしない。」
とぐりぐりと頭を擦りつけてくる。
「それと、お風呂にも勝手に入ってきちゃだめ。今日だけでござるよ?」
「うん。ごめん。」
あんまり沈んでいる左之助の様子が可哀想になって、剣心は許してやったのだった。
その時、剣心ははっと気付いた。
「あっ、大変!」
「なんだ?」
左之助はやっと機嫌を直した剣心の胸に顔を押し付けたり唇の端に口付けたりで忙しい。自分から剣心の意識を奪うものは皆、敵だ。左之助はそんなふうに思っている。
左之助は剣心を逃がさないように強く抱きしめようとした。
「スープ!コンロに乗せたまんまでござった!」
あっさりと剣心は左之助の腕の中から抜け出て、湯気の帳から出ていってしまう。
左之助は不満そうに唇を尖らせた。
「ちぇっ・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

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