Kiss me baby,Wake me up! Vol.2

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慌ててバスルームから出て、体にタオルを巻きつけた姿の剣心は、電気コンロのもとに走り寄った。ガスコンロにはかけなかったので火事やガス漏れの心配はなかったが、スープが焦げてしまっては美味しくない。
 ぐつぐつと煮立っているコーンスープは、案の定少し焦げついていた。
 コンロのコンセントを抜き、鍋を下ろして剣心はふうと息をついた。ほんの5分ほどで戻るつもりだったのに。左之助がいると、あらゆる予定は思い通りにいかなくなることを失念していたのだ。
 ふと気配に気付いて振り返ると、びしょびしょに濡れたままの左之助が、裸のままで立っている。置いて行かれて、寂しかったらしい。
 「けんしぃん・・」
と情けない声で呼び、濡れた体をぶるるる、と振るう。おかげでその辺には容赦なく水が飛び散った。
  「さのッ、お風呂から出たら体を拭かなきゃダメっ。あっ、またぶるぶるしたら許さないでござるよっ!」
 左之助はまた体を揺すって水分を弾き飛ばそうとしていたのを慌てて押し留める。せっかく機嫌を直してもらったのに、また怒らせてしまった。左之助は項垂れた。
  左之助には悪い事をした、という反省の気持ちから落ち込んだりはしない。そんな価値観は左之助には存在しないからだ。
 大体剣心が左之助に教えることは、左之助にとってどうでもいいことだった。ただ剣心の機嫌をそこねると、悲しいから落ち込むだけなのである。
 剣心はふう、と息をつくと、体に巻いていたタオルをまくって左之助においでおいでをした。とたんに破顔した左之助はタオルの中に飛び込む。
 風呂から出た際に慌てていてタオルケットを取ってしまっていたので、ふたりが包まるにはちょうどいい大きさだった。
 左之助はふわふわのタオルケットと剣心の肌に体をこすり付け、くうくうと鼻を鳴らして甘えた。
 犬のときでも手に余るのに、人の姿の左之助に甘えかかられてはひとたまりもない。左之助は剣心の頭二つ分も大きいのだ。ふたりはキッチンの床にもつれ合って倒れこんだ。剣心は笑いながら左之助の頭をがしがしと拭いてやる。
  ばたばたとじゃれあううちに、ふと剣心はいやな予感がしてタオルケットの中を覗き込んだ。すると案の定、左之助はすっかり元気になってしまっている。
 左之助は甘えた声で咽喉を鳴らしながら剣心の首筋を舐めたり、耳を軽く噛んだりしている。
 剣心は慌てて左之助の体を離した。ここでうやむやのうちになだれ込んだりしてしまったら、今日一日何も出来なくなってしまう。それどころか、左之助はきっと自分を離してはくれないだろう。そうなると今日どころか明日、明後日まで体が使い物にならなくなるのは必至だ。
 剣心は厚い胸を押し返しながらぴしゃりと言った。
  「ダメでござるっ。ご飯食べて、出かけるでござるよっ」
 左之助は熱を持った部分を押し付けながら目で懇願する。しかし剣心は全く取り合わない。
 「左之がぬらしたところ、ちゃんと拭くでござるよ」
 左之助はうらみがましげに剣心の髪をつんつんと引っ張ったりしていたが、タオルケットの中からさっさと出て着替えに行かれてはどうしようもなく、立ち上がってぶつぶつ言いながらぞうきんを手に床を拭きはじめたのだった。

 

 

 

 

 

 

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