Kiss me baby,Wake me up! Vol.4

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「今日も一日、がんばるでござる」
左之助は膝をつく剣心の胸に、前足をのしっとつけ、後ろ足で立つ。そして剣心の顔をぺろぺろ舐める。
くすくす笑いながら剣心は左之助を抱きしめた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日も左之助ちゃん、元気一杯みたいですね」
駐車場で会ったご近所さんに挨拶をしながら真っ赤なローバーミニに乗り込む。
左之助は剣心の開けた運転席側から助手席に飛びこんだ。
剣心はシベリアンハスキーの人形がついたキーを差し込む。
左之助は自分でパワーウインドウのボタンを押して、窓を開いている。首を窓から出して、風を受ける。
真っ赤なローバーから顔を出すハスキーは今ではかなり有名になっていて、手を振ってくる人もいる。最初は戸惑っていた剣心だったが、今では笑顔で手を振り返せるようになった。
自然に笑えるようになった自分に、ふと気付いてびっくりする。それもこれも左之助のせいなのだろう。
10分ほどで仕事場に着く。裏に車を止めると、早速剣心は表の戸を開け、左之助はバックをくわえて中に入る。二階に上がって着替えるためだ。
剣心は開店の準備に忙しい。すぐに左之助も降りてきて剣心を手伝う。
花を並べ、水をやる。水は水道の水ではなくて、特別な蒸留水だ。
剣心は比古に引き取られた後、一切誰とも話そうとせず、草木に囲まれて閉じこもっていた。それ以来、剣心にはなんとなく、植物の気持ちが分かるような気がするのだ。
左之助も、大抵の動植物とはコミュニケーションできるらしい。左之助によるとこの店の植物たちは皆剣心にくびったけなので、売られて行く時ちょっと寂しがって泣くそうだ。
剣心はひとつひとつの花や木に声を掛けながら水をやり、肥料を与える。するとちゃんと植物たちは応えてくれるのだ。
そして急いで今日のおやつの準備をする。今日は野苺のソースをかけたレアチーズケーキと洋梨のタルトだ。このケーキは常連さんたちにしか知られていないもので、店の中のカウンターや外のパラソルの下で振舞われる。これが実に美味しいのでとても評判なのだ。左之助は甘いものが苦手でお菓子はまるで食べないのだが、剣心が作ったものだけは口にできる。
ケーキを作っているうちに10時半になり、開店だ。
左之助はさっそく配達に出かける。でも左之助は実は配達は好きではない。少しの間でも、剣心と離れるのが嫌だし、その間剣心を一人にしておくのが心配だからだ。だから左之助は大急ぎで走って配達へ向かう。そして帰ってくると嬉しさを押さえきれず、飛びついてしまうのだ。
客が来ている時にすると後で大変叱られるのだが、止める事は出来ない。左之助は自分の感情を押さえることが出来ないからだ。
「剣心、俺がいない間に変な奴来たらすぐに俺を呼ぶんだぞ、飛んで帰ってくっからな。しつっこい男の客が来たらぶっとばしてやる。それから・・、」
うるさい左之助を店から押し出して、いってらっしゃい、と手を振る。左之助は途中で何度も振りかえりながら走って行った。
「すぐ帰ってくっからよ!寂しくて泣くんじゃねえぞ!」
遠くからそう叫ぶ左之助の声を聞いて、剣心は思わず吹き出した。

 

 

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