独白

 



ちいさな背中。

 薄い肩。

 細い首筋。

 風になびく夕陽色の髪。

 かたちのよい爪。

 猫の仔みてぇにでっかい目。

 頬に走る十字の傷。

 なあ、とっくに気づいてんだろ?

 時々困ったように目を伏せて、俺の見てたとこをそっと隠すもんな。

 俺が口に出して言わねぇから、ごまかせる気でいるのか?

 それとも、やっぱ迷惑か?

 そのくせ俺がしばらく顔出さねぇと、弁当持ってのこのこ長屋にきやがる。

 お陰でこっちはおめぇが帰った後でも、瞼の裏にちらついて眠れやしねぇ。

 わざとだったらとんだ小悪魔だぜ?

 どうしてこんなことになっちまったのか、俺にだってわからねぇ。

 俺はただ、あいつを見てただけなんだ。

 あいつがあいつの言うとおりの人間か、付きまとって見極めてやる、そう言っただろ?

 生まれて初めてこの俺をこてんぱんにのしやがったあいつの強さの秘密を盗んでやろうとか、そんな事も考えてたかもな。

 誰よりも側にいて、あいつの事を見てるつもりだった。

 嬢ちゃんやガキなんて、何一つわかっちゃねぇよ。

 あいつが一番綺麗なのは、戦ってる時だ。

 髪が赤い稲妻みてぇに走って、刀の光るのと相まってまるで花火みたいでよ。

 なにより、あの目。

 普段は静かな群青の瞳が、金を帯びたすみれ色に変わるんだ。

 あの目に見つめられたら、誰だってすくみ上がるぜ。

 とんでもなくおっかねぇのに、ゾクゾクさせられんだ。

 このまま刺し殺されたら、どんなに気持ちいいだろう、ってな。

 あいつの側にいて、こんな気持ちを知ってるのは俺だけだ。

 だから正直、あいつが戦ってるとこを見る時はなんだか複雑だ。

 きっと相手もあの時の俺みてぇな気持ちを味わってやがると思うと、なんだか腹の底がじりじりやけやがる。 

 でも、そいつらも知らないあいつを俺は知ってる。

 道端で死んだ子猫を抱き上げて埋めてやった時の悲しげな表情も、縁側で居眠りしちまった時のまぬけな寝顔も。

 いつのまにか俺の中には色んなあいつでいっぱいになっちまった。

 一体どうしてくれんだよ。

 責任取れなんて言えた義理もねぇけどよ。

 それでもひとつ気づいたことがある。

 あいつは、みんなが思うほど強くないんだ。

 本当はあいつは剣を持つべきじゃなかった。

 優しすぎて、誰かを傷つける度にあいつ自身も深く傷つく。

 剣の腕が神業だからって、あいつの心もそうじゃないんだ。

 あいつがこれ以上傷つかないためなら、俺はあの綺麗な姿が二度と見られなくなってもかまわないと思う。

 とんだお笑い種だよな。

 俺が、おまえを守りたいなんて。

 おまえがやってきたことも、その手が血で染まってることも俺は知ってる。

 きっとおまえが死んだら、たくさんの人が手をたたいて喜ぶんだろう。

 大事な肉親を殺された人にとっておまえは、殺しても殺し足りない憎い仇だ。

 でも、俺は。

 どうしたらいい?俺は、そんな人殺しのおまえが欲しいんだ。

 今日もおまえは俺の視線からそっと逃れては、困ったように目を伏せる。

 いいぜ、好きなだけそうやって逃げろ。

 そのうち追い詰めて、逃げきれなくしてやる。

 その時がくるまで、俺の側からいなくなるなよ。

 頼むから。

 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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