鈴虫情歌

「りいん・・りいん・・」
 秋も日いちにちと深まるある夜、ふたりはゆっくりと川べりを歩いていた。
「鈴虫でござる・・・いい声でござるな」
「ああ。そうだな」
 剣心は清廉な鳴き声に耳を傾けようと目を閉じた。と、その鈴虫の声の裏に小さく響く音を感じ取る。
「ん・・?」
 微かだったが確かに、カチリ、カチリと鳴っている。
 (こおろぎでござろうか・・・。もうすっかり秋でござるなぁ・・・)
 剣心は少し先を歩く左之助にそっと寄り添う。左之助の顔を見上げると、視線に気付いた左之助と目が合った。左之助はにやりと犬歯を見せて笑うと顎をしゃくってみせる。その先には淡い提灯の光。
 やがてその光に作られたふたつの影は店の中へと吸い込まれていった。

 二階の部屋に案内されて、仲居が障子を閉めるか閉めないかのうちに、左之助は剣心の体を引き寄せると唇に吸いついた。
「さ・・ん・・んっ」
 左之助の舌が遠慮なく剣心の口腔内に侵入してくる。ふうわりとした下唇を、ちゅるりと音を立てて吸い取ると、歯でそっとあま噛みする。その途端、剣心の体にビリビリと震えが走り抜ける。剣心は思わず印半纏の袖を掴んだ。左之助は袖を掴むその細い手をそっと放させると自分の首に廻させた。そのまま左之助はどんどんと深くまで舌を絡める。柔らかい剣心の舌はとろとろと蕩けてしまいそうで、頼りなく滑る舌を左之助はますます強く吸い上げる。飢えて乾いた者のように互いの唾液を啜った。唇は刺激に赤くなり、蜜で顎まで濡れそぼる。
「ん、んふっ・・」
 激しいくちづけに気を取られているのをいいことに、左之助は猫を可愛がるように背を撫でる手を腰まで下ろしていく。そっと袴の割れ目に深く手を差し入れると、下帯越しに兆し始めた剣心をさすりあげた。
「んはっ・・、さのぉっ」
 顔を逸らせて左之助に抗議の声を上げたが顎を掴んでふたたび唇を塞ぐ。今度は下帯の中に手を入れて直接鷲掴んだ。剣心自身は左之助の大きな手の中にらくらくと収まってしまう。手のひらでいつもの感触を楽しんだ後で、ゆっくりとこすりたてた。その度に剣心の体は魚のようにビクビクと跳ね上がった。鈴口をそっと摘んでくりくりといじくる。たちまち左之助の手は先走りの蜜で濡れていく。与えられる容赦の無い刺激に、左之助の首に廻した腕に力がこもる。
「ん、ん、ん、」
 剥き出しになった先端を強く擦ったかと思うと、羽根のようにそっと指先で撫でたりして剣心を追いたてる。茎を握って自慰のように何度も激しく上下にさすると、剣心の体が痙攣したように震え始めた。
「やべ」
 左之助はやっと剣心の唇を開放すると、指で輪を作っていかせないように強く締め付ける。着物を着たまま達してしまうと着物が汚れてしまう。左之助は剣心を立たせたまま、自分は膝をつくと袴の横から剣心自身を引き出し口に含む。
「あ、あ、左之、やぁ・・」
 剣心は泣きそうな声で左之助の髪を引っ張るが、手に力が入らない。ただ震えてしがみつくだけだ。その間にも左之助はぬめぬめと剣心自身を根元までくわえてしまう。裏の筋を舐め上げたり、舌を絡めて飴のようにちゅうちゅうと吸ったりして剣心を泣き喚かせる。涙をぽろぽろとながし、しゃくりあげながら左之助に許しを乞う。剣心の膝がガクガクと震え出すと、左之助は一番敏感で柔らかい先端に舌を当てて舐めまわした。
「も、もうっ」
「出せよ。」
「い、いやっ。それだけは・・」
「そんな強情、言ってられるのか?」
 どうしても左之助の口に出す事は嫌だと真っ赤な目をしてぶんぶんと頭を振るが、左之助は許さない。剣心の体液でたっぷりと濡らした指を刺激に緩んだ菊座に入りこませると、ゆっくりと前立腺を擦りたてながら、ぴくぴくと震えるモノの先端を強く吸い上げた。
「あ、ひゃああ・・ん!」
 悲鳴を上げながら剣心はとうとう我慢しきれずに達してしまう。ごくんごくんという飲み下す音が部屋中に響く。剣心は顔を真っ赤に染めてへなへなと座り込んでしまった。
「はぁ・・はぁ・・」
 剣心が呆然と自失しているのをいいことに、左之助は剣心の身体を抱き上げて蒲団まで運ぶと、しゅるしゅると着物を全て取り払った。相変わらず、左之助の指は剣心の蕾に入り込んでゆっくりと出し入れを繰り返している。いつのまにか指は三本に増えて剣心の中を探り、擦り上げていた。剣心のふとももの感触を掌で楽しんだ後、剣心を畳に押しこかす。
「左之・・?」
 少し気を取り戻した剣心が左之助に声を掛ける。ふと自分の姿を見下ろすと、いつのまにか一糸纏わぬ姿にされている。剣心は驚いて身を縮めた。
「い、何時の間に・・」
「まあまあ、いいじゃねぇか。ほら、俺も脱ぐからさ。」
「そういう問題では・・」
「いいから、もう黙れよ。」
 左之助は自らの唇で剣心の口を強引に封じた。
「ん・・んむぅ・・」
 きつく舌を絡め合わせながら、胸の突起を摘む。その途端にびくりと身体を跳ね上げた。名残惜しげに唇を放すと、耳を辿り始める。清潔な耳の穴に舌を差し入れた。
「あ、あんっ」
 首筋に移ると頚動脈に吸いつき、軽く音を立てて吸い上げた。剣心は急所を晒してしまった事で本能的に左之助を押し退けようとするが、左之助の匂いが脳髄に染み込んできた途端、腕は左之助の身体に廻っていた。それに気がついたのか、左之助は誰にも見せた事が無いほど優しい笑みを浮かべた。
「剣心・・!」
 剣心の身体の全てを手で、唇で触れる。ぷっつりと立ちあがった胸の蕾を舌先で舐め上げた。ちゅ、ちゅと音を立てて吸う。その間にも、執拗に剣心の秘孔をぐちゅぐちゅと撫でまわしていた。
「ひ、ひうっ・・」
 感じる所を何度も擦られて、剣心は無意識の内に腰を揺らし始める。左之助はその様子にほくそ笑むと、剣心の両足を広げて高く上げさせ、秘められた部分を露わにさせる。指が入り込んでいる菊座を舐めてたっぷりと唾液を流し込んだ。剣心は、奥を刺激する指と入り口を突つくぬめった舌の感触に狂わされ、ひっきりなしに茎の先端から蜜を溢れさせる。左之助は側に脱ぎ捨ててあった下履きの隠しから何か小さい丸いものを取り出すと掌で温める。その後、ピンクに染まってヒクつく蕾に二つ続けて押し込んだ。それは真鍮でできており、ひとつは中が空洞になっている。もうひとつは空洞の中にさらに小さい玉が入っている、つまり鈴のような作りになっているのだ。床の責め道具、名を琳の玉という。剣心は身体の中に押し込まれた固い異物に気付き身を起こした。
「な、なに・・?」
 左之助の手の体温に温められてはいるが、明かに冷たい金属の感触に慌てて菊座に指を押し込んだ左之助の腕を掴む。しかし指をくの字に曲げられてぐったりと蒲団に倒れ込む。
「やだ・・左之、除けてぇっ・・」
「だぁめ。」
 左之助はぐるぐると指をまわして中をかきまわす。
「あっ、あっ、あっ」
「剣心、もういいだろ?」
「い、いやっ、それだけはっ・・!」
 左之助は剣心の懇願も聞かず、身体を裏返して腰を高く上げさせると緩んだ菊座に逞しく天を仰ぐ自身を押し当てた。剣心の緊張を和らげる為に剣心自身の先端を擦りたててやる。剣心が甘い溜息をついた途端に左之助の茎の先端が蕾の中に吸い込まれた。
「ああっ・・!」
 ゆっくりと左之助が入り込んでくる。剣心は蒲団を噛んで侵入の衝撃に耐えた。根元までずぶずぶと銜え込む。身体の奥底で繋がる快感にしばらくふたりはじっと浸った。
「はぁ、はぁ・・さ、さのぉ・・」
 左之助の熱さと固い琳の玉の冷たさに身震いが走る。
「動くぜ、いいな」
「えっ・・、ひゃっ」
 剣心の身体ががくんと大きく揺すぶられる。ゆっくりと太竿を抜き出して行く。先端まで抜き出すと、また根元まで押し込む。初め緩やかだった動きは、少しづつ激しくなっていく。身体の中心を、どくどくと脈打つ左之助が突き通している。
「熱いぃっ・・!」
 激しい律動に互いの身体の境界が失われていく。とろけそうな熱が意識まで焼き尽くす。しかしその薄れる意識の隙間から、ある音が入り込んできた。その音は、虫の鳴き声に似ていた。ふたりの動きにその音は連動している。
「な、なに・・?」
 剣心は激しく揺すぶられながら耳を澄ます。
「あれ?知らねぇの?これ、音が鳴るんだぜ。だからリンノタマっていうんじゃねぇか。」
 そう、左之助が入れた責め道具が、ふたつ触れ合って音を立てているのだ。川辺を歩いている時、幽かに聞こえた音は、左之助の隠しにあったこれの音だったのである。
「い、いやああっ!」
 剣心は顔を真っ赤に染めて悲鳴を上げ、左之助から逃れようとする。
「逃げんな」
 左之助は強く剣心の腰を引き寄せる。
「あうっ」
 深く左之助が突き刺さる。背が海老のように反りかえった。
「ほら、黙ってよく聞いてみろよ。」
 その背を抱き締めて、左之助は耳元にそっと囁く。顎を掴んで唇を塞いだ。部屋中にふたりのくちづけと、番う濡れた音、そして琳の玉の触れ合う音が響く。聴覚が、肌で感じられるほど研ぎ澄まされている。
半分開けられた障子の外から、川辺で鳴く鈴虫の声。その鳴き声に、玉の音が重なる。
 鈴虫は、比翼の相手を呼ぶ為に、羽を震わせ鳴き叫ぶ。
 そして今、ふたりはこれ以上無いほど繋がって、お互いがたったひとつの連理の枝と、ふたりだけの楽を奏でる。
 どんなにはかなく短い命でも、鈴虫はただ、身を震わせ、声を嗄らして生きるだけだ。そして長い時の果てにやっと互いを見つけ出したふたりにはもう、言葉はない。発火するほど強く繋ぎ合い、貪り合う。何度も何度も絶頂を迎える。何の制約もなく、好きなだけ達した。頭が真っ白になっていく。
「ぁのお・・」
「けん・・し・・」
 何度目かわからない絶頂を同時に極めた時、同時にふたりは互いの名を呼んだ。

 ぐったりと蒲団に沈み、息を整える。その間にも、左之助は散々刺し貫いた部分に手を伸ばす。
「さ、左之っ。いい加減にしないかっ」
「なんだよ。アレ、出しとかなきゃまじいだろ。じゃねぇと、歩くたんびに音がするぜ」
 あんまりな左之助の言いぐさに剣心が固まっている隙に、ぐちゅりと指を差し込む。
「んふっ・・」
「どこへいったかな、っと・・」
 左之助は玉を探すふりをして中を刺激する。
「くっ・・左之っ!よせっ」
「なんだよ。俺はただ、玉を探してるだけだぜ」
 ようやく左之助の指が玉を探り当てる。しかしたっぷりと含まされた左之助の精液で、つるつると滑って出てこない。
「しゃあねぇな。ちょっと待てよ。」
 左之助は膝立ちさせると、秘孔に指を二本突き入れ、精液を掻き出す。
「あ、あはっ・・んんっ」
 ぽたぽたと蒲団に濃い蜜が吸い込まれて行く。剣心自身が立ち上がり始めた頃、ぽとりと一つ目の玉が掻き出される。続いてちりんと音を立ててもうひとつの玉が落ちた。
「ふう・・」
 がくりと剣心が力を失って倒れ込んだ。左之助は剣心を仰向けにしてのしかかる。
「さ、左之・・?」
「しょうがねぇなあ、あれだけしといてまだ足りねぇのか?」
「せ、拙者はもう・・」
「じゃあ、これは何だよ」
 左之助は立ち上がった茎をつんつんとつついた。
「んっ・・、それは、左之がっ」
「俺はただ、玉を出してやっただけだぜ。」
 剣心は真っ赤になって左之助を睨みつけると、言った。
「そうでござる。まだ、足りないでござる。だから、ちゃんと責任、取るでござるよっ」
 開き直った剣心をぽかんと見つめた後、左之助は極上の笑みを見せて笑う。
「もちろん、だぜ。」
 障子の外では、相変わらず鈴虫の鳴き声が響いている。
 まだ、しばらく鈴虫の歌は終わりそうにない。

 

                       了

 

 

 

 

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