夜長姫と耳男

 

「おはよう、左之。今日は早いでござるな」
 清々しい朝の日差しの元、剣心は真っ白に洗い上げた洗濯物を干しながら振り返った。声もかけずにいたのに、気配を読みとる能力は相変わらずらしい。
 よっぴいて遊んで、朝の光に目を灼きながら左之助は神谷道場へと足を運んだ。そして目に映る、朝日よりも眩しいオレンヂ色。左之助は目を瞬かせながらぼんやりと立ち尽くしていた。
 剣心はぼんやりとしている左之助に不審そうに首を傾げる。
「どうかしたのでござるか?」
「い、いや、なんでもねぇ」
 左之助は明後日の方に目を向けた。
「ああ、腹が減っておるのでござるな。左之の朝餉なら、布巾を掛けて卓袱台の上においてござるよ。」
 風になびくふわふわとした髪をなでつけながら、剣心は子供を懐柔するようにやさしく言った。左之助はその時突然、どうしようもないほどの殺意をおぼえた。その太陽に透ける髪をひっつかんで地面を引きずり回したい。
「けんしぃーんっ!」
 その時、どたどたという騒々しい足音を響かせて薫と弥彦がやってきた。
「剣心、今日はお夕飯、赤べこにしましょう。今夜、妙さんと燕ちゃんとでお芝居に行く約束したのよ。だから・・・」
 剣心は薫の言葉にいちいち頷いたり、笑顔を返したりしている。弥彦はといえば、剣心の袴を引っ張っては剣術の稽古を見てくれとせがんでいる。
 自分だったら鬱陶しくて蹴散らしたくなる所だが、剣心はまるでやさしい母親のように微笑んでいる。何故か左之助の胸には、剣心の首を絞めて揺さぶりたいという残酷な欲望がふつふつと沸きあがってきた。
「おいコラ剣心!!」
 突然左之助が大きな声でよばわる。
 バサバサと道場の木々に止まっていた鳥たちが飛び立つ。余りの大声に薫と弥彦はびっくりして飛び上がった。
「なっ、なにようっ。」
「びっくりさせんなよ!!バカ左之助!」
「なんでござるか?左之」
 それでも剣心はふわふわした笑みを浮かべながら左之助を見上げる。髪はいよいよ太陽に透け、そのまま空に溶けてしまいそうだ。
 小首を傾げて下から左之助の顔を覗き込んでいる剣心に、左之助は堪えきれずにイライラと地面を蹴った。
「うるせぇ!なんでもねぇよっ!」
 左之助は鋭い瞳で剣心の睨み付ける。来たばかりだというのにくるりと踵をかえして勝手口を蹴り壊すと騒々しく出ていってしまった。
「左之・・・?」
 剣心は突然の左之助の行動に驚き、洗濯物を抱えて立ち尽くす。いつもと変わらない朝の風景の筈なのに、一体何が彼の気に触ったのだろうか。
 左之助がこの神谷道場に通うようになって、ひと月ほどになろうか。剣心と戦ってできた傷も癒え、今では毎日のように道場を訪れるようになった。薫も弥彦も、最近では左之助を家族の一員として認めたようで、左之助のいる風景が当たり前になってきていた。
「何よ、あれ。変な左之助。」
「どうかしちまってるんじゃねぇのか。」
 剣心は少し寂しそうに、左之助の為に用意していた朝食に目をやった。
 その日の夜のこと。剣心は人の気配に目を醒ました。彼の肌に感じ取れたのは、慣れた波動である。
「左之・・・?」
 しかし何かがいつもの気配と違う。左之助の気はどこまでも明るくまっすぐで、しなやかな強さに満ちている。剣心はその気を感じるたびに何故か安心して満ち足りた気分になった。なのに、今自分の肌に突き刺さる気は、明らかに左之助のものなのに氷のように冷たい。
 剣心は布団から起き上がると障子を開け放った。
 果たして、暗闇に沈んだ庭には、左之助の姿があった。身体は闇に包まれてよく見えないが、その瞳は鋭い光を発している。
「どうしたのでござるか、左之。」
 しかし、左之助の応えはない。息の詰まるような沈黙が剣心の足下から忍び上がってくる。剣心はこの異様な空気を打開するために、明るい声でしゃべり始めた。
「今日は、薫殿と妙殿たちがお芝居に行ってな、それが大変面白かったらしくて・・・」
「剣心。」
 そこで初めて左之助が声を発した。剣心はやっと話してくれた左之助に安堵して、息をつく。しかしその瞬間、左之助の目が異様な光を帯びた。鳥だろうか、大きな黒い鳥が頭上を横切った。ふとそれに剣心の意識が逸れる。
 その次の瞬間。
 剣心のすぐ側に左之助の瞳があった。
 これは、殺気?
 まさか、
 そして剣心の水月に激しい衝撃が走った。
 避ける暇もなかった。
 くらりと剣心の身体が傾ぐ。膝がかくりと力を失う。気を失う直前、剣心の瞳にはニヤリと笑う三日月と獣のように細く光る瞳が映っていた。

 漆黒の闇に沈んでいる。
 もう、身体の半分は底無しの闇に飲み込まれている。でも、ここから抜け出そうという意志はもうない。
 もう、いい・・・。
 ごぽり。ごぽり。
 沈んでいく。
 肺にある濁った空気を吐き出した。
 誰かが自分の身体を揺さぶっている。
 誰?
 哀しげな悲鳴が、心に響いた。言葉の意味は理解できなかったが、必死に自分を引き止めようとしているのは感じた。
 泣いている?
 幼い声で、自分に取りすがっている。
 その声は、まだ子供だったころの自分を思い出させた。コロリで死んだ両親にしがみついて泣いていた自分、自分を守って死んだ女の子、そして・・・。
 もう、泣かないで。ほら、すぐお前の側に行くから・・・

 意識が浮上する。目を開けると、そこには必死の形相で自分を揺さぶっている左之助が映っていた。
「左之・・・?」
 左之助は剣心が起きたのに気付くと、ほっとしたような顔をした。
「ここは・・・?」
 意識がはっきりしてきた剣心は、左之助に質問を投げかける。すると左之助はまた表情を固くした。暗くてよく見えないが、そこは六畳ほどの部屋であった。どうやら左之助の長屋ではないようだ。耳をそばだてると、木々が激しく風に煽られる音が聞こえた。どこか、山奥の別荘といった所だろうか。
 その途端、剣心の左頬が激しく打擲された。何の予告もなく突然だったので、剣心は避ける事ができずまともに食らってしまう。どたりと畳に倒れ込んだ。左之助の力でまともに殴られて、剣心の目の前は白く染まった。
 ぼんやりと倒れ込む剣心の着物の袷をつかんで左右に引く。そしてその白い首筋に噛みついた。
「あうっ・・・!」
 見事な歯形に沿って、赤い血が流れる。しかし左之助は構わずに血を舐め取ると、そのまま舌を剣心の体中に這わせた。剣心の胸に咲く桃色の蕾に吸い付いては歯を立てた。左之助は容赦なく、そしてやさしさのかけらもなく剣心の敏感な部分だけを執拗に責め立てた。袴の脇から下帯を引き抜くと、袴も身に着けたままで下肢を探り出す。手のひらよりも小さな剣心自身を掴んだ。
「放せッ!!」
 剣心は悲鳴を上げて逃れようとする。途端に強い力で握り込まれた。
「ひッ・・・」
「暴れんじゃねぇ。握り潰しちまうぞ」
 左之助は剣心の身体を返すと大きく足を開かせ、口に含んでしまう。
「や、やめっ・・・」
 剣心は身体をよじるが、その間にも左之助の唇は剣心をぬめぬめと銜えこんでいく。柔らかい粘膜に包まれて、剣心は悲鳴をあげる。敏感な部分は意志に反して反応を返しはじめ、どんどんと膨らみを増していく。左之助はその様子を感じ取ってうすら笑う。
「なんだ、こういうの、慣れてんじゃねぇのか。ほら、もうこんなだぜ。」
「ち、違うっ。こんなのは・・・」
「嘘つけよ。ここは正直に気持ちイイです、って言ってるぜ。」
「左之助、頼む。もうこんな事は止めてくれ・・・」
 剣心はとうとう哀願を始めた。
「へぇ・・・。幕末最強の人斬り様ともあろうものが、しがない喧嘩屋にお願いするとはねぇ。でも残念だが、俺は止める気はさらさらねぇよ。覚悟しな。」
「どうしてだ・・・?一体、何がお前をこんな事に駆り立てるのだ・・・」
 しかし左之助はそれに答えず、剣心自身をしゃぶりたてるのに熱中しだした。剣心の背中が大きくしなう。
「あ、あああぁっ」
 やさしく舌で舐めたかと思えば、強く吸い上げられ、先端をつつかれて剣心はとうとう身体を痙攣させ始めた。
「イケよ、ほら」
 左之助は舌で包むようにして吸い上げながら、手で激しく擦りたてた。眦から涙を滲ませながら、剣心は左之助の口中に精を噴き出した。
 激しく呼吸を整える暇も与えず、左之助は剣心を四つん這いにさせると腰を高く上げさせる。左之助の意図を読みとった剣心は腰を捻って逃げようとする。しかし左之助は剣心が逃れようとすればするほど、強く引き寄せる。指で申し訳程度に解したあと、容赦なく左之助はその怒張をつき入れた。あまりの痛みに剣心は悲鳴もない。遠ざかる意識を呼び戻す為に髪を強く引っ張りながら、左之助は根元まで押し入った。
「ひうっ」
 全てを収めると、しばらくして左之助はゆっくりと動き始めた。双丘を大きく開かせて限界まで挿入する。剣心の柔らかい肉を余すところなく堪能した。
「すげぇよ、おめぇ・・・」
 突然、剣心の身体の奥で何かが流し込まれる。しかしすぐに左之助は強くいきりたって剣心をむさぼる。激しく抽挿する音が部屋に響く。左之助は何度も達し、たっぷりと欲望を流し込んだ。様々な形で剣心と繋がり、陵辱した。剣心は途中で意識を失ってしまったが、左之助は意識のない彼をなおも突き上げ続けた。
 まるで悪夢のような夜が明け、窓から明るい日差しが差し込む。剣心は太陽の光に目を灼かれ、意識を取り戻した。身体のあちこちが痛みを訴えている。しかしそれよりも、友だと思っていた左之助に乱暴を受けたという事実の方が、剣心を深く傷つけていた。
 痛む身体を起こして、辺りを見回してみる。そして剣心は自分のいる部屋を見て愕然とした。昨日は暗くて分からなかったが、そこは木の格子に囲まれた座敷牢だったのだ。慌てて戸口に駆け寄るが、幾重にも鍵が掛けられていて出る事ができない。
 完全に、閉じこめられている。
 さあっと血の気が失せる。剣心はふらふらとよろけながら部屋の角に座り込んだ。
 それからしばらくすると、箱膳を持った左之助が現れた。
 部屋の隅で小さくなっている剣心を一瞥すると、まるで何もなかったかのように剣心に話し掛ける。
「腹、減っただろ。ほら、朝飯持ってきたぜ。食えよ。」
 狭い部屋中に美味しそうな匂いが立ちこめる。しかし剣心にとっては嘔吐感を催す匂いでしかなかった。胃の中がいっぱいで、何も食べる木などしないのだ。剣心はあくまで左之助を無視しようとした。そっぽをむいて左之助の言葉に反応しない。すると左之助は剣心に折角用意した膳をぶつけてきた。
「つうっ・・・!」
 熱い味噌汁を被った剣心は痛みに思わず声をあげる。痛みに震える剣心の様子を見ると、左之助は慌てて剣心に近寄った。
「だ、だいじょうぶか?」
 震える手で着物を脱がせると、火傷の具合を確かめる。幸い、火を止めてから味噌を入れたせいもあって、それほど高温ではなかったらしい。少し赤くなってはいるが、火傷まではしていないようだ。
「そ、そうだ、冷やさねぇとな。ち、ちょっと待ってろ。」
 左之助は慌てながら座敷牢を出た。あまり慌てていたせいで、牢の鍵を閉めるのを忘れてしまっている。
 逃げるなら、今が好機だ。しかし、なぜか剣心は逃げ出す事ができなかった。足に根が生えたように、動く事ができないのだ。
(はやく・・・はやく逃げないと・・・)
 気は急くのに、這うことさえできない。このままでは、もしかしたら殺されるかもしれないというのに。
 数分後、左之助は水を張った桶を抱えて戻ってきた。そしてうっかり鍵を掛けずにいた事を知ると、慌てて戸を閉める。中に剣心がまだいる事を確認すると、安堵と困惑を同時に感じているようだった。
「剣心、水、持ってきたぜ。ほら、冷やしてやるよ。」
 左之助は患部に湿った布を当てようとして着物の肩を落とした。そして目に映る、真っ白な背中。傷もシミひとつなく、妖しげな光を湛えている。左之助の顔は、みるみるうちに真っ赤に染まった。
 背中を開けさせたまま、何もしようとはしない左之助に、剣心は後ろをうかがう。不審そうな剣心の瞳と目が合うと、左之助は布を投げ出した。
「甘えんな!大体、何で俺がこんな事しなきゃなんねぇんだよ。。もとはといえば、おめぇが素直に飯を食わねぇのがわりぃんじゃねぇか。これくらい、自分でしやがれっ」
 左之助はそれきり、座敷牢から出て行ってしまった。もちろん、厳重に鍵を閉めるのを忘れてはいなかった。

 剣心は、一歩も座敷牢から出る事は許されなかった。一度、鍵に触れている所をみつかった時など、左之助はまるで狂ったように暴れまわり、剣心を殴りつけた。剣心の首を容赦なく締め上げギラギラと光る目で剣心を睨みながら、
「もし、俺から逃げてみやがれ。地の果てまで追いかけて、必ず殺してやる。必ずな!」
 そして更に鍵の数を増やし格子を頑丈にした。生活に必要なものは全て左之助の手から与えられた。まるで、剣心は羽の折れた鳥のようだった。左之助がいなければ生きていく事もできないような、籠の鳥。
 そして左之助は昼夜構わず欲しい時に欲しいだけ剣心をむさぼった。どうしてこういう事になったのか、左之助は何の説明も剣心にはしなかった。無理矢理剣心をねじ伏せるようにして、身体を交わしていた。剣心が少しでも抵抗すれば、荒縄で縛り上げて犯した。それはまるで、獣が獲物を食い尽くすようだった。
 日が経つにつれ剣心はほとんど口をきかなくなっていった。初めの内は囚われてからの日数を数えていたが、途中からそれも止めた。家に残してきた子供たちが気がかりだったが、どうやら左之助の方がうまく誤魔化しているようだった。何とか自分を保つ為に、身体と心の壁を築き、まるで抱き人形のようにただ左之助に貫かれるだけの存在に徹していた。左之助はその事に気付いているのか、しかし剣心に対する執着は益々強まっていくばかりだった。
 その夜も、執拗に左之助に抱かれ、剣心は気を失ったまま眠りについていた。ふと、雨が落ちる音で目を醒ます。剣心は左之助の腕に包まれていた。腕の中から逃すまいとするように、強く抱き締めたまま、左之助は眠っている。吐息さえ交じり合う至近距離で、しかし二人の心はこれ以上ないほど離れていた。しかし、それでも左之助は抱き締めるのだ、この身を。
 ふと呼吸が乱れるのを感じて、剣心は左之助の顔を見上げた。左之助は、口の中で何やら寝言を呟いているらしかった。
「・・・んし・・・」
 夢を見ているのだろうか。左之助はだらしない顔をして笑うと、腕の中の剣心を更に強く抱き締める。髪の中に鼻を埋めると、頬を擦りつけてくる。
 今、左之助の夢の中では、一体誰が居るのだろう。先ほどまでの狂ったような左之助からは想像できないほど、彼はやさしく満ち足りた表情をしていた。剣心はその寝顔を見つめている内に、心が穏やかになっていくのを感じていた。暖かい腕に包まれながら、剣心はまた、眠りに落ちていくのだった。

 朝。目をあけると、すぐ側に剣心の寝顔を見つけた左之助は、柄にもなく顔を赤らめた。まるで夢の続きのようだった。夢の中では、俺と剣心との間には穏やかな空気が流れていた。無理矢理手を伸ばさないでも、剣心の身体も心も自分の側になった。そして・・・
 左之助は剣心のうっすらと開いた唇をむさぼるように見つめた。かわいらしい、さくらんぼのような唇。左之助は何度も剣心と身体を交わし、身体の隅々まで触れていたが、唇だけは別だった。昔、馴染みの遊女が唇だけは本当に好きなひとの為に触れさせずにいるのだと言っていた事が左之助の心に引っ掛かっていたからであろうか。
「身体を交わすより、唇を交わす方が女にとっちゃ大事な事ってあるんだよ。言葉よりも、唇を合わせる方が思いを伝えるのさ。分かるかい」
 左之助にも、剣心が自分との関係を望んでいるわけではない事が分かっていた。そんな剣心から、唇まで奪い取る事はあまりに残酷に感じられて、左之助は唇だけには触れる事が出来ずにいた。でも本当は触れたくてしょうがなかったのだ。触れればきっとまっすぐに、俺の心を伝えてくれるだろうに。
 左之助は息を詰め、ゆっくりと剣心の唇に近づく。
 あと、少し・・・。
 左之助は腕の中の身体がみじろぐのを感じて、慌てて顔を離した。
「目、醒めたか。今日はちゃんと飯、喰うんだぞ。喰わねぇと鳥みてぇに絞め殺すからな」
 物騒な言葉を吐いて脅しながら、左之助は部屋から出ていく。剣心は自分を包んでいたぬくもりが去ってしまって身体が急速に冷えて行くのを感じていた。
「さあ、飯だ。今日は俺様特製の味噌汁に、鯖の味噌煮だ。味噌尽くしだぜ。全部食えよな」
 左之助は剣心の前に陣取ると、剣心の食事を見張る。ここに来てから剣心は随分体重を落としている。もともと細かった身体は更に細くなり、まるで飛んでいきそうだ。左之助は毎日、剣心が喜びそうな豪華な食事を作っては、剣心の前に並べていた。
 その日は、珍しく剣心はきちんと食事を平らげた。左之助は、きれいに空になった箱膳を見て、嬉しそうに鼻を擦った。
「よしよし。この調子で、毎日ちゃんと喰うんだぞ」
 左之助はにこにこと笑みながら膳を片づける為に部屋を出ていった。
「剣心、今日は飯を全部食った褒美に、ちょっとだけ外に出してやるよ。」
 左之助は鼻をうごめかしながら自慢げに言った。剣心の身体に着物を着付けると、抱き上げて座敷牢を出る。何日ぶりかに、剣心は格子の外に出された。
「ちょっと、これつけてな。」
 左之助はそういうと、剣心に目隠しをした。自分と剣心の腕に手錠をはめる。そして剣心に絶えずなにか囁きかけながらどこかへ連れていく、剣心はじゃらじゃらという手錠の音を聴きながら、また暖かい腕に包まれてうとうとしていた。
 しばらく歩いた後、剣心は地面に下ろされる。そして目隠しを取られた。
 剣心が目を開けた先にあったのは、辺り一面に咲き乱れるシロツメ草であった。
「綺麗だろ?俺も最近みつけたんだ。ほら、」
 左之助はひとつ花を手折ると剣心の髪に挿した。剣心は左之助があまりに嬉しそうにしているのでちょっと可笑しくなって、クスリと笑った。左之助は久しぶりにみる剣心の笑顔に驚き、頭を掴んで色んな角度から剣心の笑顔を眺めた。剣心はその様子に益々可笑しくなってクスクス笑いをもらす。ふたりはひとりきり奇妙な遊びにふけると疲れてシロツメ草の海に倒れ込んだ。
 空はどこまでも、ぬけるように青い。
 空を見上げる剣心の視界の端に、左之助の顔が映る。左之助は少し顔を赤らめている。もぞもぞとしている左之助の下肢に視線を落とすと、左之助自身が下履きを大きく押し上げているのが目に入った。また、剣心は可笑しくてクスリと笑いをもらす。左之助は剣心の帯を抜き取った。
剣心は青い空と、三つ葉を見つめている。左之助の身体が覆い被さってきた。手錠を外し、剣心の身に着けているもの全てをはぎ取ると取り上げてしまう。左之助の目にはシロツメ草の白と剣心の肌の色、そして三つ葉の緑だけが色彩だった。
「剣心・・・」
 剣心の身体を思い切り抱き締める。金に透ける髪からは、芳醇な土と花の香りがした。髪を優しく梳き撫でる。剣心は相変わらず左之助を見上げる。覆い被さる左之助はまるで空から降ってくるようだ。剣心は目を細めて左之助を見つめる。左之助は剣心の身体を手で辿った。練った絹のようなすべらかな肌に、左之助は夢中になる。誘惑に耐えきれず、手だけでなく身体中、五感全てを使って剣心を味わう。肩を強く押さえつけると、舌で肌を舐めつくす。その度に白い肌は震えを舌に伝えた。
「んっ・・・」
 左之助の指が、剣心の胸の桃色に色づいた飾りに触れた。途端に剣心の身体がびくりと跳ね上がる。左之助はその反応の良さに気をよくして執拗に嬲り始めた。片方を指先で撫でながら、もう片方にそっと息を吹きかける。たちまち蕾は色濃く染まり、立ち上がった。ちゅっと音をたてて口づける。唇で上下に撫でた。
「あぁ・・・」
 剣心は焦れったい愛撫に頭を振る。左之助はぬめる舌でぺろぺろと舐めた。舌先でくりくりとこねる。
「ん、ひっ・・・!」
 剣心は身体を捩ろうとしたが、強い力で押さえつけられていて左之助の下から逃げ出せない。とうとう左之助は蕾をすっぽりと覆ってちゅうちゅうと吸い上げた。剣心は吸われる度にびくん、びくんと背を跳ね上げる。
「あ、あ、」
 その間にもつつっ、と指で臍に向かってたどる。臍のくぼみの中に人差し指を差し込んだ。剣心はくすぐったさに声を上げて身体を捩る。とうとう左之助の手は剣心の露わにされた下肢にたどりついた。薄い茂みに指を絡めて軽く引っ張る。軽い痛みとくすぐったさがない交ぜになって剣心を痺れさせた。隠しようのない秘められた部分は、とうに震えながら立ち上がっている。左之助はそっと手で覆った。剣心のこれは左之助の手の中にしっくりと収まる大きさで、いつも左之助は剣心のこれに執拗なまでの執着を見せた。立ち上がったモノの裏筋をくすぐってやる。
「んくっ・・・!」
 剣心は思わず先端からびゅくびゅくと雫をこぼしてしまう。
「ありゃ」
 左之助は驚いて剣心の顔を見る。剣心は、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして身を小さく縮める。その様子を見て左之助は意地悪そうにニヤつきながら顔を覗き込んだ。
「だーれがおもらししていいって言ったよ、あ?」
「あ・・・」
 左之助は嬲っていた部分から手を離す。剣心は思わず縋る瞳で左之助を見上げる。
「もっと、かわいがって欲しいか?ん?」
 剣心はあまりの羞恥にふるふると頭を振る。
「いい子にしねぇともうやめちまうぜ?」
「あ・・・やぁっ・・・」
 剣心は大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼしながら左之助に手を伸ばす。
「さ、のぉ・・・」
 その瞬間、左之助の頭は激しい落雷に襲われた。
「け、剣・・・心・・・」
 頭の中が真っ白になる。震える手で、差し伸べられた剣心の手を取る。剣心の身体が壊れるほど強く抱き締めた。
「剣心・・・・!!」
 再び暖かい腕に包まれて、剣心は左之助の首筋に頬を擦りつけながら目を細める。
 抱き締める事で剣心と左之助の下肢が強く触れ合う。左之助のモノは熱をはらみ、強くいきり立っている。それは剣心の腰に当たって痛いほどだ。剣心は下履きの上からそっと撫でた。
「くっ・・・、このっ」
 左之助はうめき声を上げると、剣心の身体を返して綺麗な背中のくぼみに沿って舌を這わせ、ぷりぷりした双丘をもみしだいた。大きく開いてもっとも秘められて部分を露わにする。
「あ・・・や、」
 明るい日差しの元にさらされて、羞恥に耐えきれず身体を捩る。こんなに明るい所で、一糸もまとわぬ姿のまま全てを左之助に晒しているのだ。しかし左之助はお構いなく、更に腰を高く上げさせる。剣心は左之助の視線を秘所に感じて顔を真っ赤に染めながら指を噛んだ。視線に犯されている。剣心自身は益々立ち上がり、ぽたぽたと蜜を漏らした。
 左之助が赤く色づくつぼみに熱い息を吹きかける。途端に慎ましげなつぼみはひくりと蠢いた。左之助は舌なめずりするととうとうつぼみに口づけた。
「や、やあっ、それはっ・・・」
 中心を舌でつつかれる。つぼみはひくひくと収縮を始めた。つぷ、と音がして舌を受け入れる。すっかり柔らかく溶けたつぼみは、足りないモノを補おうとするように柔らかい舌を締め付ける。剣心は無意識の内に腰を揺らめかしていた。秘部からぬるぬるとした駅が分泌されるのを啜る。同時に二つの果実を揉まれ、剣心の身体に身震いが走る。愛液を滴らすピンク色の先端に軽く爪をあてたかと思えば優しく擦られて、剣心は背を反らせ、はしたないほどの悲鳴をあげながらびゅくびゅくと蜜を噴出させた。白い液が三つ葉を濡らす。がくりと剣心が頬を柔らかい三つ葉に押しつける。顔に自らの蜜がついてしまったが、剣心は気付かない。
息を整える前に、左之助は前をくつろげるといきり立つ怒張を押し当てる。激しく突き入れた。剣心は身体の中心を満たされ、その衝撃に声もない。力任せに押し入られたが、やわらかくとろけていたつぼみは花開き、従順に左之助をくわえ込む。根元まで飲み込んだ左之助自身は、剣心の一番奥まで入り込んでいた。繋がっている部分から、ビリビリとした痺れが指先まで伝わっている。
「ああ・・・さぁ、のぉ・・・」
 やがて左之助はゆっくりと、次第に激しく動き始めた。動物の番う形で突き上げられる。深く楔を穿たれ、揺さぶられている。
「ん、あくっ、ひう、」
 がくがくと上下に突かれ、そして大きく腰を回される。件の身体の隅々まで知り尽くした左之助の手によって、剣心はいいように支配された。強く感じる所を探り当て、突き刺してくる。剣心の頭はとうとう真っ白になってしまった。
「もう、もう・・・!」
 ぐい、と左之助が入り込む。大きく突かれ胸に深く抱き込まれて、剣心は思いきり蜜を放出した。同時に左之助も、低い吠え声を上げて剣心の身体の奥にたっぷりと流し込んだ。
 しかし左之助の動きは止まらない。繋がったまま足を掴んで回す。太い楔がぐるりと蕾の中で回転した。じゅぷっ、と淫靡な音がして左之助の蜜が溢れ出る。向かい合う形になると、膝の裏に手を当てて、リズムをつけて上下に揺さぶりだした。その度に、じゅっ、じゅっという擦れる音が響く。
 剣心にはもう正気はなく、はしたない嬌声を上げながら自らも腰を揺さぶった。左之助の上に跨り、根元までくわえ込む。下から突き上げる左之助に合わせて、律動した。ふたりとも、数え切れないほど達し、貪りあった。最後にはもう吐き出すものが無くなっても、とうとうふたりが疲れ切って眠りに落ちるまで番い続けたのだった。

 胸の中が空虚に感じられて、左之助は目を醒ました。
「剣・・・心・・・?」
 名を呼ぶが、しかし剣心の姿はない。左之助は慌てて立ち上がった。野原を見回すが、何処にも剣心の姿はない。左之助の頭に、ズンと固まりが落ちて目の前が真っ暗に染まる。
「け、けん、けんし、ん」
 ふと側を見ると、自分が取り上げた剣心の衣服が散らばっていた。とすれば、剣心は裸のままで逃げ出した事になる。左之助は慌てて何度も転びかけながら剣心を捜しに走り始めた。
 剣心が、自分の側からいなくなった。
 それは一番、自分が恐れていて、しかしいつか訪れることをどこかで感じていたことであった。
 イヤだ。
 アイツは、俺が捕まえたんだ。俺のモンだ。勝手にどっか行っちまうなんて許さねぇ!
 突如、子供の頃の傷が開いて血をふきだし始める。
 隊長。
 みんな。
 俺の一番大切だったもの。
 それは、無理矢理にもぎ取られ、粉々に壊されてしまった。それからの月日、俺はその傷を隠し、血を流しながら生きてきた。その傷を癒し、俺を地獄の淵から救ってくれた、
 剣心。
 伝説の人斬り、抜刀斎。
 しかし普段の剣心は、そんな事など微塵も感じさせなかった。俺はいつの間にか、アイツから目が離せなくなっていた。何故だろう、何をしていてもアイツの事ばかり気になって、いつも考えてしまう。アイツの俺を見る眼差し。笑顔。声。
 でもアイツは、流浪人だ。いつ、何処へ流れて行ってしまうか分からない。
 お前も、俺の側から消えるのか。
 そんな事、許さない。
 何時しか、左之助の目から暖かい雫が溢れていた。
 涙など。
 あの日、あの冷たい雪の中、隊長の首を目にした時に、枯れはてたと思っていた。
 あんな格好のままで、何処へ行ってしまったのか。もしかして、何か大変な事に巻き込まれているのではないだろうか。
 嫌な考えが浮かぶたびに、胸が張り裂け双なほど痛む。
「剣心ッ・・・!」
 血を吐きそうなほど、声を張り上げる。
「剣心、剣心、剣心、剣心・・・!」

 剣心は、幸せそうに眠る左之助の腕の中で目を醒ました後、喉の渇きを感じ、小川を捜しに抜け出した。身体中が自分と左之助の精液でべとついていたが、恥ずかしいとは思わなかった。青い空を見上げながら、水のあつ方向に向かって歩いていく。
 さらさらという水の音を聞き取る。小川だ。剣心は清水をすくって飲んだ。冷たい水が身体に流れ込む。次いで身体を清める為に小川に入った。
 しかし、しばらくすると剣心の心に不安が広がり始める。左之助に囚われてかあら、これほど左之助と離れていた事などなかった。いつも左之助は自分の側にいて、暖かい腕で包んでくれていた。その腕が、今はない。急に剣心は肌寒さを感じて身体を抱き締めた。
「寒い・・・」
 左之、寒いでござるよ・・・。
 明るかった日の光が、急に陰る。清らかな流れが、血の池に変わる。無数の腕が伸びて、剣心を捕らえ引きずり込もうとする。
「い、いやあぁっ・・・!」
 助けて。
 助けて、左之・・・!

 散々剣心を捜して駆けずり回った後、左之助は剣心の悲鳴を耳にした。
「剣心?!」
 声のする方に慌てて駆け寄る。果たして、剣心は小川の中で半狂乱になって藻掻いていた。左之助は小川から剣心を抱き上げて陸へ上げると、印半纏を脱いで着せかけ、冷えた身体をさすってやる。
「大丈夫か、剣心?」
「あ・・・・、さ、の・・・?」
「吃驚したぜ、急にいなくなっちまうからよぉ・・・」
「さ、左之っ・・・!」
 途端に剣心は左之助に抱きついた。
「け、剣心?!」
 左之助は戸惑いながらも、震える腕で抱き締める。
「左之が、左之が居なくて、拙者・・・」
「そ、そりゃあこっちの台詞だ。起きたらおめぇが居なくて、俺ァどうかしちまうかと思ったぜ。でもよかった、見つかって・・・」
 ただふたりは言葉もなく、互いの隙間を埋めるように抱き締めあう。
「・・・もう二度と、俺に口なんかきいてくれねぇんじゃねぇかと思ってた。いや、それどころか、二度と会えねぇんじゃねぇかと思ってた。」
 しばらくして左之助はそっと剣心の耳元に囁く。
「どうして・・・?」
「だって、おめぇ俺の事嫌いだろ。当たりめぇだよな、俺ァおめえを苦しめたんだ。」
 しばらくの沈黙の後、剣心は質問を発した。
「左之。どうして、こんな事を・・・?」
 途端に左之助は身体を強ばらせる。
「拙者、どうしてもお主がこのような事をする意味が分からなかった。教えてくれ、左之助。」
「・・・俺には、分かんなかったんだよ。本当に欲しいものを、手に入れる方法をな。」
 剣心は真剣な面もちで左之助の顔を見上げる。
「俺はガキの頃、大事なもの取り上げられちまった。それからは何か欲しいモノがあっても、諦めるか力でねじ伏せて手に入れるかのどっちかだったんだ。それ以外の方法なんて、誰も俺に教えてくれなかった。でもこれまでは、それでも何とかやってこれたんだ。喧嘩の腕を上げてからは、俺が望んで手に入れられないモノなんて無いと思ってた。でも、そんな俺をお前はうち負かしてくれた。俺を救い出してくれたお前が、俺は欲しくてしょうがなかったんだ。隊長たちの代わりじゃねぇ、側に居て欲しかったんだよ。俺だけのモノにしちまいたかった。だけど、おめぇが俺なんかのものになるわけねぇ。だったら、さらって閉じこめちまえばいい、そう思ったんだ。そんな方法じゃ、俺が一番欲しいものなんて、離れていっちまうばかりだって、分かってたくせにな・・・」
 左之助は剣心の頬を撫でると、淋しそうに笑った。
「御免な、剣心。俺、もう二度とおめぇの前に顔出さねぇよ。約束する。」
 ずっと黙って左之助の話を聞いていた剣心は、その言葉を聞いて目を見開いた。
「だ、駄目でござる・・・!拙者の前から消えては嫌だ!」
 その言葉に左之助は驚愕を隠せない。
「ど、どうしてだ?俺、おめぇに酷い事ばっかり・・・」
「・・・拙者も、淋しかったよ。淋しい事に自分で気付かないくらいに。左之助と一緒に居て、初めて気付いた。でも左之はずっと側に居てくれたな。拙者を救ってくれるのは、拙者が剣心のままで救う事のできた左之、お前なんだ。拙者も、初めて本当に欲しいものに気付いたよ。」
「剣、心・・・」
「左之、拙者たちは、双子のようでござるな。」
「そうか?全然似てねぇぞ?」
「魂が、ひっついているのでござるよ。だから、こんなにも互いが恋しいのだ。拙者たちは、互いに欠けた所を互いに持ってる。だから、ひとつに戻りたいって、泣いてるんでござる。」
「そうか。だから、こんなにおめぇが欲しかったんだな。」
 左之助と剣心は何時しか涙を零していた。その涙を互いに拭いあう。
「剣心、俺、お前に言いたい事があるんだ。」
 ふたりは心が洗い流せるほど、生まれたばかりの赤ん坊のように泣いた後、左之助は剣心に囁く。
「なんでござる?」
「あのな、」
 左之助はそう言うと、剣心の顎を上げさせる。
 そしてその桜桃のような唇に、そっとくちづけを落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

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